契約恋愛~思い出に溺れて~
数歩前を行く紗優を見て微笑む。
こんな気持ちで、父や母が私を見てくれていたこともあったのだろう。
前の結婚のときは色々意地を張ってしまったけど、やっぱり感謝の気持ちを伝えたい。
「うん。そうね。出て欲しい」
「で、その後『Hellebores』で軽く食事でどう?」
「Helleboresで?」
「一応出会った場所だしね。紗彩はあそこのピアノ好きなんでしょ」
「うん」
難しそうと尻込みしてしまう事が、ポンポンと進んでいく。
こういう時の方が生き生きしている英治くんは、
やっぱり前に向かって行く事が好きな人なんだろう。
足が棒になるほど歩いても、中々希望の物件は見つからなかったけど、
それでもこうして一緒にいられることが嬉しかった。