契約恋愛~思い出に溺れて~
英治くんは、溜息を一つ吐きだして、少し柔らかい口調になって言った。
「人一人が出来る事は無限じゃない。
紗彩は特に、真面目だから。上手に手を抜くことだってできないだろ?
仕事が忙しければ、やっぱり他の事にまで気が回る訳がないんだ」
「それは……」
「だから、頼みがあるんだ」
私の言葉を遮るように、彼が口を挟んだ。
今私の言葉を聞く気はないとでも言うように。
唇を真一文字にして、鋭く厳しい視線で私を見る。
いつもの笑顔の英治くんが見たい。
こんな時に、何故かそんな欲求が湧き上がって気まずさに目をそらした。
今は、紗優の話をしてるのに。
何を考えてるの。
「頼みって、……なに?」
「ああ」
言いにくい事を言いだそうとしてるのは一目瞭然だった。
彼が膝の上で指を何度かこすりあわせる。
そこに彼のためらいがうかがい知れた。