契約恋愛~思い出に溺れて~
「横山ちゃん……じゃ無かった、葉山ちゃんが降格した時は、驚いたよ」
10月の人事異動の話を今だに蒸し返すのは橘さん。
結局、彼が私の代わりに管理職に就いたのだ。
昔から、彼とは仕事の事でもめてばかりだから、以前だったらきっと苦い思いでこの話を聞いたろうと思う。
「やっぱり女って結婚すると仕事はおろそかになるんだなぁ」
「橘さんは結婚してないから分からないですもんね」
小さくやり返すと、少し眉を寄せそれを無視して話を続ける。
この人も変わらないな、と思うと少しおかしい。
こんな風に考えられるなんて、自分の方には随分余裕が出来たのかも知れない。
「あー、橘さん、昇格したんですってぇ。おめでとうございます」
そこに割って入ってきてくれたのは渚だ。
「おお、笹山ちゃん、久しぶり」
「いやだぁ。もう笹山じゃないですよ。これからは唐沢でお願いします!
どうですか? 会社。私なんてもうすっかり専業主婦が板についちゃってぇ。
ホラ、久しぶりだから乾杯しましょ!」
渚はそう言って、グラスを持ち上げるとこっそり私に目配せをした。
どうやら、橘さんに絡まれてると思って助けてくれたらしい。
私は、「ありがとう」の意味を込め、渚に目配せを返す。