契約恋愛~思い出に溺れて~
私は、ピアノに目を向けた。
今日は金曜日だから、ピアノ演奏があるのだろう。
週末だけピアノを弾く、黒く艶のある長い髪のピアニストは、いつも清楚な雰囲気を醸し出している。
「今日は香織さん弾くの?」
「ええ、2部からの演奏です」
オーナーはにこやかに笑う。
いつもそつのない顔が、彼女の話になると少し緩むような気がする。
はっきり教えてはくれないけど、オーナーと彼女は実はいい関係なんじゃないだろうか。
ものの数分後、目の前に透明な液体が入った綺麗なグラスが置かれる。
私はそれを軽く持ち上げ、達雄のウーロン茶のグラスに合わせた。
「乾杯」
同時に、演奏が始まる。
ゆっくりと流れだすピアノの旋律が愛おしい。
「さて、聞かせてもらおうかしら」
「早速かよ」
「その為に呼びだしたんでしょう?」
自嘲気味に笑う達雄に、意地悪な笑みを投げかける。