バニラ
「ん、ありがと」

恭吾はあたしの手から自分の携帯電話を受け取った。

「じゃ、あたし帰るから」

「待って」

背中を見せようとしたあたしに、恭吾が肩を抱き寄せた。

「せっかくだし、この後お昼どう?」

耳元でなめるようにささやかれて、あたしの心臓がドキッと鳴った。

「その女の人は誰なんですか?」

突然聞こえた第3者の声に視線を向けると、茶髪の女の人だった。

「――中原」

恭吾が彼女を見て呟いた瞬間、あたしはその人だと理解した。
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