銀杏


〈咲side〉

疲れた――。

目が覚めて、最初に頭に浮かんだ言葉だった。

暖かい部屋。
台所から聞こえる包丁の音。

おばちゃん、帰って来たの?

重い体を起こして、カウンターの向こう側を覗いた。

「…何してるの?」

「あ、起きた。もう大丈夫か?今、カレー作ってるから、できるまでゆっくりしてろよ。」

「うん…ありがと。おばちゃんは?」

「あ、電話あったよ。じいちゃん、大丈夫だって。急性肝炎らしい。一週間で退院できるってさ。」

「そう…。」

おばちゃん、いないんだった。ぎゅって抱いて欲しかったのに。

カウンターからまな板の上を見た。

じゃがいも、人参、玉ねぎ…あれ、牛肉は?




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