四竜帝の大陸【青の大陸編】

28

「振動が1つでもあればお前の首を落とすぞ、ダルフェ」
「トリィ様の【繭】が微かでも動いたら心臓を抉って、踏み潰す! わかった? 返事はどうした役立たずがっ」

メリルーシェの都市フィルタ上空を旋回して支店屋上に降りるタイミングを計る俺には、先ほどから容赦ない罵声と脅しの言葉が浴びせられていた。

竜体の俺には、反論する気力も体力も残っちゃいなかった。
とにかく、姫さんの駕籠を屋上に無事に降ろすことだけに集中する。
眼下に見える屋上には、用意されているはずの着地衝撃吸収効果のある特殊な絨毯が無かった。
並みの客には用意される事の無いその超高級絨毯が当然敷かれていると思っていた俺は、内心かなり焦った。
【繭】を使用しているから多少乱暴に降ろしたとしても、姫さんに傷1つ付きはしない。
はっきり言って、この高さから地面に放り投げたって平気なのだ。
駕籠は壊れるが【繭】は問題ない。
だが俺の背と額にそれぞれ仁王立ち(飛んでいる竜に乗ってるのに微動だにせず立っている化け物級のお二人)している旦那とハニーには通用しない。

先ほどからピリピリを通り越し、ビリビリ…こっちが感電死しそうなほど苛立っていた。
旦那は姫さんに会えないために道中ずっと、ずう~っと不機嫌だっだ。
不機嫌な旦那。
最悪だった……普通の竜なら旦那の<気>にあてられて心臓麻痺してるって、絶対!

ハニーはハニーで支店との通信状況に不満が爆発状態で。
メリルーシェ支店長が部下に電鏡での連絡通信を任せっぱなしで、ハニーの指示がきちんと伝わらなかったらしい。
着地準備が全くされていない屋上の状態からも分かる。
重要なことは、何も伝わっていないってことが……。
通信担当がまだ幼い竜族だったためにハニーも強く言えず……竜族は幼い者に甘いからなぁ。
一生懸命なミチという少年に「お前は使えないから支店長を出せ」とも言えず、ハニーは相当困ったようだった。
妊娠中の雌竜は母性本能が数倍あがるからハニーはミチ少年には強くでられない。

姫さんを異常なまでに可愛がるのも多分、そのせいだ……と思うのだ。
1ヶ月前に初めて姫さんに対面した時、ハニーの中で護るべき対象に分類されたのには俺も驚いた。
基本的にハニーは人間が嫌いだし、竜としては珍しいほどの残虐さと凶暴性を持っている。
この大陸で竜帝につぐ攻撃能力を誇るハニーが姫さんあれほど懐くとは、陛下も誤算だったはず。
旦那のつがいの座を得、あの最強竜騎士カイユを侍女にしている異界の娘。
王侯貴族なんか比べ物にならない稀有な存在。

VIP中のVIPなんだぞ?
この俺様が直々に運んでるほどのな!
なのに、なぜ衝撃吸収絨毯すら用意されてないのかー!?

俺に恨みでもあるのか? 
ミチ少年よ。
そして俺を殺す気か? 
会ったことすらない支店長!!

< 126 / 807 >

この作品をシェア

pagetop