四竜帝の大陸【青の大陸編】
「!?」

カイユが冬の空なら、この人はその空を映した氷河のようだ。
凍てついた心、そのままに。
けっして融けない氷の瞳。

「竜族と人の交配? そんなくだらねぇことは、黄泉に行った後にクソババア陛下に聞きゃあいいんだよ」

仮面が消え去り、苛烈極まりない本性が現れる。
 
「てめぇは俺の娘(カイユ)と孫(ジリ)のことだけ考えてりゃいいんだ。……時間はそう長くは残ってねぇんだろう、ダルフェ?」

その言葉に。
俺の疑問は吹っ飛び、先代の交配実験のことなど考える余裕が無くなっ。

「あんた、な……んでそれをっ……」

絶妙のタイミング。
話をすげ替えられたってことは、俺にも分かってる。
だが、そこから抜け出せない。

「ん? 大事な娘の結婚相手を調べる父親は珍しくねぇだろう? てめぇの親父はプロンシェンと仲が良いからな。そこんとこをちょっと利用させてもらった」

意識せずとも。
腰の剣へと、手が動いた。

そんな俺に気づいて、セレスティスは苦笑した。

「大丈夫だ、プロンシェンは口が堅い。それに俺はカイユには言わねぇ……言えねぇよ」
「……俺……は、ま……だもちます」

頭の中はこの事態に対処すべく、冷静に『計算』を始めてるのに。
 漏れた言葉は、取り繕えなかった。

「ま……だ、死ね……ない……」

俺は。
やらなきゃいけないことがある。
まだ、死ねない。
 
「なぁ、ダルフェ。カイユは俺に似て腕っぷしは強いが、内面はミルミラに似て脆い娘だ。これ以上、あの子を追い詰めたくねぇんだよ」

俺の愛する者とよく似た顔の、この竜騎士は。
遺される者の哀しみを、容赦なく俺に突きつける。

カイユ。
俺は君を。

父親と同じように。
哀しみの世界に。

愛しい君を、置き去りにするのだろうか?

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