四竜帝の大陸【青の大陸編】
脇腹の痛みは身体の中に散るようにして徐々に薄まって……痛みというより痒みのようになっていた。

私はハクと結婚してから、確かに傷の治りが早くなっている。
彼と関係を持てば不老長寿になれるというのは、迷信だって竜帝さんは言ったけれど。
私のこの身体は……。

「無理すんなよ?」

私の頭部を抱き込むようにしていた竜帝さんの鱗は、ハクと違ってほんのり温かかった。
それは優しい温度。
触れ合ったところから、突然の事に息苦しいほど心臓が激しく胸を打ち続ける私を、じんわりと温めて……癒してくれるような気がした。

「だ……だ、だいじょ……ぶ、大丈夫です」

海の青に包まれて見たのは、ソファーに横たわる藍色のドレスの……。

「セ……セシーさん?」

結っていた髪が解けて広がり。
まるで金のヴェールのように、彼女の顔を私の視線から隠していた。

「竜帝さん、セシーさんがっ!」
「武人の身体は普通の人間より頑丈だから、大丈夫だ」

あ。 
武人……そうだった。
セシーさんはセイフォンで、壁にめり込んだのになんともなかった。

「ほら、ゆっくり立てよ?」
「え、あ……」
   
竜帝さんは私の手をとり、飛びながら引き上げて立たせてくれた。
ハクと同じ小さな手は、躊躇無く私の手を甲の上からぎゅっと掴んだ。
ハクは、しない……できない。
自分の鋭い爪を気にして、どうしても‘にぎにぎ’してしまう彼にはできない。

「……ありがとう、竜帝さん」

真珠色の小さな竜が、両手をぎゅっとにぎりこんで‘にぎにぎ’しながら私を見上げる姿が脳裏に浮かんだ。
会いたい。
早く、ハクに会いたいと思った。

「俺がいながら、こんな目に合せてすまなかった。……え~っと、じじいには内緒だからな? あ、俺がお前に触ったのもだぞ!?」
「は、はい!」
「よし! おい、セシー!」

私の手を離し、飛び立った竜帝さんはソファーに倒れこんでいるセシーさんの顔に小さな両手を添え、ぐっと上向かせた。
その動きに、彼女の髪が左右に揺れた。
現れたその顔に先程の異様さは見当たらない
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