四竜帝の大陸【青の大陸編】
この痛みは、ハクへの想いを否定されたからなのか、それとも……。
言葉に詰まった私にかまわず、ミー・メイちゃんは語気を強めて続けた。

「セイフォンからトリィ様が去られた後、私は<監視者>に関する文献を読み漁りました。研究者にも直接会い、話を聞き……<監視者>は時代によっては魔物の王や邪神といった禍々しく、悪しき存在であり、<ヴェルヴァイド>という通り名を持つ恐ろしい存在であることを知りました」

魔物の王……邪神?
ハクちゃんが!?

ハクちゃんは、ハクは。
あの人はパスタをフォークでうまく巻けなくて、しょんぼりしちゃうような人なのよ?
 
ご機嫌だと長いしっぽがゆらゆら揺れるのよ?
素直でまっすぐな、とっても可愛い人。

確かに、怖い面もあるけれど……。
ねぇ、ミー・メイちゃん。
この世界の人達は、知らなかったの?

あの人が寂しがりやで泣き虫で。
真冬のお日様のようにやわらかく、微笑むことが出来るんだって。
  
「あのような得体の知れぬ、危険な者の伴侶になることを自ら望まれるなど……正気とは思えません。選択肢の無いこのような状況下では、偽りの心を本心だと思い込んでしまうのも……心を病まれるのも無理のないことです。辛い、認めたく現実から目を背けるようになって……微笑みながら、内側から壊れてしいく。祖母がそうでした……だから私に分かるんです」

ミー・メイちゃんは喋りながら、満足気に何度もうなずいた。
 
「ご安心ください、私が貴女をそこから救い出します。四竜帝すら敵わぬという<監視者>から逃れるには、異界にお帰りになれば良いのです」
「ミー・メイちゃん、あなたは何を言って……か、帰るっ!?」

帰る?
 
帰る!?

元の世界に。
ハクの居ない世界に、帰る!?
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