四竜帝の大陸【青の大陸編】
「おちびの転移先はヴェルにも分からなかった。青の大陸か他の大陸か……ヴェルが負荷を引き受けたとしても、状況はこれ以上ないほど悪い……でも、なんとしても探し出さないと」

陛下の声は硬く、低かった。
転移の負荷を旦那が全て引き受けたから、姫さんが無事?
そんなおめでたい考え、この場にいる誰1人持ってないさ。

「蜜月期中の雄竜がつがいを失えばどうなるか。未だつがいを得られぬお前でも、それくらいわかっているのだろう? 状況は悪いどころか絶望的と言うべきではないか?」

黒の爺さんの言葉に<赤>はうなずき、<黄>は超音波のような怪音を発し続けていた口を閉じた。
「大海に揺らぐ木っ端をどう探す? 砂漠に落ちた塩粒を見つける術はあるのか? ちっぽけで無力な異界人を探し出すなど、不可能だ。甦った<ヴェルヴァイド>によって世界は滅ぼされ、消え去るだろう。ふむ……種として人間などに負け、ぶざまに滅ぶよりはその方が良いのではないかな?」
「や……やだ、弱気な<黒>なんてらしくないよ。お願いだからそんな事言わないで! <黒>は頭良いってイドイドが言ってたんだから、あんたがなんか良い案考えてよ! 私には、どうしていいか分からないもん! なんで、なんであんな子のために世界がっ……なんでよ、イドイドォオ~! ううう……ううっ……ぶうえぇえええ~んっ!」

<黄の竜帝>は泣き出し、黄色の目玉から噴水のように勢いよく涙を溢れさせた。
「……これが四竜帝とは、なんと見苦しい」

軽蔑を隠さぬ<黒>を<赤>が諌めた。

「皆の前では泣けぬ<黄>です、見逃してやってください。この子がこうなのは、我等とあの人の前でしか許されぬのですから……」

人格的、知能的に優れた優秀な者が四竜帝に選ばれるのではなく。
なりたいと望んだ者が四竜帝になるのでもない。
それは強制された、逃げることなど出来ない……許されない、生贄の道。

なりたくて、なったんじゃない。
そう口に出来たら、楽になれるのに。

「……俺は諦めない」

陛下の声に、他の四竜帝の視線が一点へと集まる。

「じじいは諦めてなかった、狂ってなかった。だから俺も諦めない」

世界の青が凝縮したような瞳が、灯りの無い伝鏡の間で星のように煌めく。

「じじいの“りこ”を見つけ出すんだ!竜族(おれたち)が、生き延びるために!!」


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