最後の恋、最高の恋。


「あの日もう一人いた男、山口っていうんだけど」


唐突に話し出したあの日の話。

だからどうしてこの流れでその話になるの?

文句を言いたいのに、頭に回された腕で胸に押し付けられて、ぐもった声しか出てこない。


なに?

この状況も文句を言わせないで聞かせるためだったりするの!?
だとしたらどこまで計算してるんだ、この男は!



「アイツ普段はいい奴なんだけど、春陽に係わることになると豹変するんだ。 それが行き過ぎてて、もう自分でも抑えられなくなってたみたいで玄関先で春陽に無理やり迫っているところに俺が出くわしたんだけど、」



そこで言葉を区切って、坂口さんは私を抱きしめる腕を緩めた。

話の途中で私が背中を叩くのをやめたから、おとなしく話を聞いてくれると判断したんだろう。

その通り、私は素直に話を聞く体制に入っていた。



そんな私に、「素直な美月ちゃんって可愛い」なんて、まるで場にそぐわないことをゆったりと柔らかい笑顔付きで言うから、唖然としてしまう。

この空気の読めなさは藤田さんに匹敵しているかもしれない、なんてどちらにも失礼なことを考えてしまう。
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