最後の恋、最高の恋。
それを少しだけ怖く感じながらも、「なので帰ります」と笑って言えば、今までとは違う絶対零度の笑顔で「女のお客様なのね?」とズバリ言い当てた。
「……えぇ、多分学さんの前の彼女だと思います」
その勘の良さに内心舌を巻きながらも肯定すると、お母さんは私の手首をぎゅっと握りしめて言った。
「逃げるの?」
その一言でお母さんの言いたいことは痛いほどわかる。
過去の女と戦わないで尻尾を巻いて逃げるのか、と言いたいんだろう。
でも、私の考えは違う。
「逃げるんじゃないです。 私は学さんの私に対する気持ちを少しも疑ってませんし、あの女の人とよりを戻すんじゃないかとも全く思ってもないんです」
「なら……」
「それでも彼女がここに来たってことは、学さんが彼女と未練を残すような別れ方をしたってことで、それは私じゃなくて学さんとの問題です」
「……確かに、そうね」
「彼女の存在で私が学に不信感を抱くようなことはないですけど、正直学さんの過去の恋愛にちょっと嫉妬してるんで頭冷やそうと思って……」
素直な気持ちを伝えれば、手首をつかんでいた手が放されてそのままギュッと抱きしめられた。