犬と猫…ときどき、君
「さて、どーすっかなぁ」
しばらく閉じていた瞳を開いて、灰皿に煙草を押しつけ、まずは何から取り掛かろうかと考える。
やらないといけないことは、あといくつあるんだろう。
時計を見ると、まだ21時過ぎ。
助手席に放り投げたカバンからスマホを取り出した俺は、着信履歴から篠崎の電話番号を探して、通話ボタンをタップした。
『もしもし?』
「おー、篠崎?」
『……どした?』
「いや、お前こそどうした?」
話したいことがあって、俺の方から電話したのにおかしいけど。
「そのテンションの低さは何だ?」
どうしても気になってしまった、篠崎のテンションの低さ。
正直、俺も結構いっぱいいっぱいで、人の悩みとか聞けるか分かんねーけど。
それでも、篠崎のこのテンションはおかしいだろ。
いつも無駄にテンションが高いのに、こんな篠崎は数年に一回くらいしか見られないから。
だから、余計に気になって仕方がない。
『ハルキ』
「あー?」
『ちょっと、話しある。わかんねーけど、もしかしたら……』
ボソボソと、まるで独り言のように何かを考え込む篠崎の様子は、やっぱりどこかおかしい。
「ちょうどよかった」
『へ?』
「俺もお前に頼みたいことあったんだ」
『……』
「何だよ」
『いや、また面倒なことじゃないといいなぁって』
「悪かったな。いつも面倒なことばっか頼んで」
別に泣き言なんて言いたくないし、言う必要もない。
だけど時々、誰かに話を聞いて欲しくなる時がある。
本当に、“ただ聞いてくれるだけでいい”なんて、都合がいいかもしれないけどさ。
「まぁいいや。とりあえず飲みに行こー」
『えぇー……。飲むのはいいけど、ハルキュンの頼みごとって、いっつもアングラ系のお願いだからイヤー』
「あははっ! アングラって何だよ! で、今から出て来れるのか?」
『もちろん! 大親友の涙声を感知できないほどアホじゃないぞ』
「泣いてねーしな。泣きそうなの、お前だろ」
『そうかもねー』
そう言えば、前に篠崎に「春希はいろいろ抱え込み過ぎだ」って、言われたことがあったっけ。
自分的には、全くそんな感覚はなかったんだけど……。
こうして心を許せるやつに話を聞いてもらいたいと思う時点で、確かに追い込まれていたのかも。
「じゃー、いつもんとこに30分後で」
『りょーかい!』
電話を切った俺は、シートに体を預けて溜め息を一つ。
俺と同じように、篠崎だってきっといろいろ抱え込んでるはずだから。
「なんだかなぁ……」
それを聞いて背負えるくらいの余裕は、まだあるはず。