≡ヴァニティケース≡
─────こっちを見ないなんて、しらじらしい─────
昨日の延長で余りやる事が無かった美鈴の思考は、自然と件の出来事に向いてしまう。蒔田への疑念が何か悪い微生物のように増殖し、嫌悪感となって背中を這い回っている。
暗がりに突如として現れた暴漢の目も、未だ瞳の奥でこちらを見据えていた。
─────あの目は尋常じゃなかったわ、まるで人形の目みたいだった─────
そして振りかぶった大振りの、あれは登山ナイフだっだろうか。鋭い切っ先、太い刀身。峰の部分には少しギザギザが有って……。あんな物を突き立てられたら堪ったものではない。
─────もしかして、あのパーカー男が居なかったら、私は殺されていたかも知れない?─────