≡ヴァニティケース≡

 改めてそう考えると、全身が総毛立つのを感じた。蒔田はと見てみれば、まだスポーツ新聞をちまちまと小さく折り畳んで、面白くなさそうな顔で誌面を睨んでいる。


─────私を仕留め損ねたから、あんな苦虫を噛み潰したような顔なの?……ああ、でも彼はいつもあんな風だったわね─────


 すると蒔田が唐突に顔を上げ、美鈴に向き直って言った。


「新人、保険点数の集計な。次からその項目別に振り分けて打ち込むことになったさかい、覚えとき」


 一瞬、視線を覚られたのかと思った。ビクンと肩が跳ねたのを気付かれなかっただろうか。美鈴は慌てて平静を装ったが、バラバラと書類を乱暴に投げて寄越す蒔田から普段と変わった様子は窺えない。


「わ、解りました」


 書類に目を通す振りをしながらもう一度窺い見ても、蒔田はごく普通の面持ちでしかなく、美鈴は拍子抜けさせられていた。



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