≡ヴァニティケース≡

 もしそうなってしまったら、けれど毎度都合良くあのパーカー男が助けてくれるとは思えない。何よりそれでは彼も多忙に過ぎる。彼が仕事熱心なのを祈りつつ過ごすのは不安だ。それにそんな精神状態では、体を抉られる前に胃に穴が開いてしまう。そんなのはごめんだと美鈴は思った。


 そんな彼女が、前屈みになって胃のあたりをさすった時だった。


「差し入れを頂いたんだが、お茶の当てに事務の皆さんでどうかな」


 不意に、柔らかい男の声が響いた。


「石田先生……」


 地獄に仏とはこの事か、と美鈴は思った。なんというタイミングの良さなのだろう。まるで計ったかのように現れた石田が、白い箱を携えて事務室の入口に立っている。



< 143 / 335 >

この作品をシェア

pagetop