≡ヴァニティケース≡
この機会を逃してはいけない。美鈴はお茶を淹れ、事務員それぞれにケーキを行き渡らせると、自然な素振りでそれを頬張る。そしてケーキを食べながらも、蒔田にブラフを仕掛ける機会を計った。石田の厚情が、淡い生クリームの甘さとともに口の中に広がる。
「どうした美鈴くん。目が真っ赤だぞ?」
「いえ、ちょっと花粉症みたいで……このケーキ、とっても美味しいです」
美鈴は鼻を啜りながらも会心の笑顔を作った。石田が部屋を出て行った時、パートの事務員がケーキ皿を洗いに席を立った時、そして蒔田の皿を美鈴が下げようと彼に近づいた時に、もしかすると機会が訪れるかも知れない。
「それは良かった。まあほら、内科のスタッフだけではとてもさばき切れないからね。じゃあ私はこれで」