≡ヴァニティケース≡

 そうやって思案に気を取られている内に、いつしか足元には夕闇が迫っていた。証拠探しに没頭して帰宅が遅くなり、挙句にひとりで暗闇を歩くのは躊躇われる。昨日と同じ轍を踏むのだけは避けなければならない。


「そろそろ帰らないと、時間的に危ないかも……」


 美鈴は急いで身支度を済ませ、閑散とした職場を後にした。そしてわざわざ回り道をして、人通りの多い道を選んで帰途に着く。これで絶対安全だとは言えないが、襲撃者に隙を見せまいとする、彼女なりの配慮だった。


 しかし、美鈴のそんな気持ちとは裏腹に、駅の改札を出て、まだ人も多い商店街に差し掛かった時。


 背後からけたたましいエンジン音が轟き、暮れ時の街を切り裂いて近付いてきた。美鈴は何が起きたのか解らず、雷鳴のようなそれがエンジン音だと気付けてさえもいなかった。


 しかしその大きな音に慌てて振り返ると、美鈴の視界にバイクが一台写った。そればかりか、帰宅を急ぐ通行人を蹴散らすようにして、真っ直ぐこちらに迫ってくるではないか。



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