≡ヴァニティケース≡

「それは言えない事になってる。だが人通りの無い道は避けろ。あいつらだって、そうそうこんな大胆な真似は出来ない筈だ」


 そして周囲を見回し、新たな危険が無い事を確認すると、「兎に角油断は禁物だからな」と言い残してその場から走り去って行った。


─────何故?─────


 美鈴はなにがなんだか解らなかった。こちらが尋ねたのは男の名前だ。名乗りたくないのならそう言えばいい。逆に言えないことになっているのなら、敢えて忠告めいた言葉を残して行く必要が有るのか。美鈴は複雑な緊張が体の中に走るのを感じていた。


「あいつらって何よ……言えない事になってるってどうしてよ! 油断するなって……私は一体どうすればいいのよぉっ!」


 気付けば周りの目も気にせず泣き崩れていた。美鈴が平静を取り戻したのは約10分後、通報によって駆けつけた警官にパトカーの中でなだめられた頃だっただろうか……。



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