≡ヴァニティケース≡
「こんな遅くに、わざわざ有り難うございました」
「いえこちらこそ、ご協力感謝いたします。女性のひとり歩きは危険ですから、当然のことをしたまでです」
そして美鈴を送ってくれた若い警官はにこやかに敬礼すると、アパートの階段を降りて行った。
事件の後は警察署での事情聴取にかなりの時間を取られた。全てを終えて部屋に戻ると、既に月は天空の最上部に懸かっている。酷く気が動転していたので、ストーカーの事を上手く伝えられなかったのが心残りだ。
「昨日はナイフ……今日はバイク……これは偶然でも通り魔でもない。私は狙われているんだ」
それに今日美鈴を守ってくれた男は、あのパーカー男とは違っていた。ファッションは爽やかなカジュアル系で、やはりがっしりとしているが背は低い。恐らく美鈴と並んだら、その肩程までしか無いのではないかと思われる。明らかに昨日の男とは別人だった。
「あの人はあいつらって言っていた。じゃあ、私を狙っているのはひとりじゃないってことよね」
そして美鈴の護衛をしている男も、パーカー男と小さい男、少なくとも2人は居ることになる。
「一体何が起こっているの?!」
言いようのない不安に駆られ、美鈴は暗い部屋で独り、自分の肩を強く抱き竦めた。