≡ヴァニティケース≡

「ごめんなさい。お待たせしました」


「いや、待つのは構わないんだが、それにしてもどうしたんだい? 君が休むなんて珍しいじゃないか」


「済みません。ご心配をお掛けしちゃって」


「まあ、そんなに悪くないんだったらいいんだ」


 壁に目をやると時計の針は10時を回っていた。ひと眠りのつもりが、丸12時間以上も寝ていたとは……。「悪くない」と言われたのも、なんだか見透かされたようで……美鈴は気恥ずかしくなってこうべを垂れた。


「済みません……」


「謝ることはない、それに今日は遅いからお菓子が無くてね、おっさん臭くてこっちこそ悪いんだが……」


 石田がビニール袋から注意深く出しているのは、紙袋いっぱいに詰まった焼き鳥だ。朝から……いや、昨日の夜から何も食べていなかった美鈴には、鶏の脂が焦げた匂いとつくねに染みたタレの匂いが堪らなかった。嫌でも食欲をそそられてしまう。



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