≡ヴァニティケース≡

 その頃、外から美鈴の部屋を窺っていた塚田は、煙草に火を点けながらスマートフォンを手にしていた。


「ああ……全ては抜かりなくやってるさ。あれは同僚の医者だったな、さっき帰ったところだ」


 美鈴の部屋から石田が出てきたのを確認した彼は、電話の相手に報告した。


「向こうはかなり荒っぽいやり方だけどな、こっちもそれなりの猛者を用意してる。心配ねえよ」


 ホタルのように煙草の先が明るくなると、暗闇に歯並びのいい塚田の口元が浮かび上がる。彼の不敵な笑みを見ているのは、月と野良猫と、スマートフォンのディスプレイだけだ。ブロック塀、電柱、公園の遊具。そこにある全てが静寂に包まれている。


「ああ、多分な。これからは証拠が残るようなやり方は出来ねえだろうよ。それに接近戦ならこっちが有利だ、そもそも踏んできた場数が違う」



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