≡ヴァニティケース≡
塚田はそれから暫く依頼人の指示をあおいでいたのか、短い相槌を二つ三つしてから「じゃあ」と電話を切った。くわえ煙草のままディスプレイを拭き上げ、スマホをスタンドに戻す。
「次の手は何でくるか、めんど臭えけど考えとかねえとな」
電柱の影と路駐車両の中に居る仲間の姿を確認した後、煙草を灰皿に押し付けて寝袋の中に沈んでいった。
そして月は雲に隠れ、星の明かりがひとつずつ消えて行く。山は空の色を映して黒緑に横たわり、東の端から明け始めていた。
「ほんとに甘えちゃってもいいんですか?」
翌朝、美鈴は親子のように仲良く、石田と並んで歩いている。
「まあ気にしないでいいよ。ほら、小学生気分を満喫させて貰っているから」
「それって……」
「幼なじみの洋子ちゃん、毎日私が迎えに行っていたんだ」
懐かしそうに遠くを見遣る石田の横顔が眩しくて仕方ない。油断するとまた涙しそうになる。ここ暫くの間で急激に涙腺が弛んでしまったらしい。