≡ヴァニティケース≡
「なんや新人。まだ休んでるんと違うたんか」
予告無しに出勤した美鈴へ、蒔田が話し掛けてきた。驚いているつもりなのだろう、その小さい目を精一杯広げている。美鈴は彼の脂ぎった顔と軽くパーマが掛かった薄い毛髪を、今朝ほど不快に感じた事はない。いつまでも目に慣れてくれないこの感覚は、クリストファー·クロスのCDを開いた時の違和感に最も近かった。
「おはようございます先輩。体調は良くなりましたので頑張ります」
「あまり無理せんときや。ま、ええけどな」
蒔田は、もうお前には興味がないとばかりにスポーツ新聞の紙面に視線を落とす。他者からの配慮を全て透過させる、薄気味悪いほど素っ気ない視線だ。
「有り難うございます」
そんな彼に向かって頭を深々と下げる美鈴。だが、視線は例のブリーフケースを窺っていた。