≡ヴァニティケース≡
職場が300人からの人員が在籍しているコールセンターならばいざ知らず、他人の持ち物を素知らぬ顔で持ち出すには、ここは人数が少な過ぎる。仮に何かに隠して運んだとしてもすぐに指摘されてしまうだろう。
美鈴がそんな出口の見えない思案に思い悩んでいた時だった。
ガチャン!
「あかん! どないしょ」
食べるのに夢中になっていたのか、突然、パートの事務員が湯呑みを倒した。まだ熱いお茶が床を流れ、蒔田のブリーフケースを濡らしている。
瞬間、美鈴の脳裏に閃くものがあった。
「大変! 蒔田さんが帰って来ないうちに拭かなきゃ」