≡ヴァニティケース≡

 予想通り、パートの事務員は雑巾を取るために給湯室へと向かった。美鈴は鞄を持ち上げて、まるでそれが当たり前であるかのようにティッシュでお茶を拭う。と同時に、中に入っている物を慌ただしく確認していった。この状況なら彼女が戻ってきても、美鈴が鞄を拭いているようにしか見えない。そればかりか中身に被害が及ばないよう処置しているのだと思うだろう。


 とはいえ不審に思われる前に、今は急いで確認しなければならない。この際書類には目もくれず、手帳だけを、しかも最近の日付けに記されているメモだけをなぞっていく事にした。


「大城はぁん、床は拭くさかいに、すんまへんけど鞄は頼んますえ」


「解りました」


 給湯室から戻ってきた事務員は床を拭くのに余念がない。これも分担と言っていいものか、なんの疑いもなく美鈴に鞄を任せている。都合よくお茶を溢してくれたのは幸運だった。



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