≡ヴァニティケース≡

 その時、裏通りのこじんまりとしたカフェで、二人の男が膝を突き合わせるようにして座っていた。ひとりは濃紺のスーツ姿で七三に撫で付けられた頭、もうひとりは作業服に身を包み、髪も短髪に刈り込んでいる。


 半地下に在るそのカフェは昼でも薄暗く、窓から射し込む明かりは床まで届かない。形ばかりのカフェカーテンを捲ると通行人の足が見える。


 なんて不細工な造りだろうと、スーツの男は思った。半地下からの眺めは当然のごとく低く視界が遮られていて、だからと言って落ちつける空間でもなく、明かり取りにはめ込まれた天窓も、小さすぎて車のルームミラー位にしか見えない。


 カーテンを戻して再び作業服の男と向き合う。ひんやりとしたコンクリートに囲まれた空間だ。【打ちっ放し】というこの建築法が流行したのはいつの頃だったろう。



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