≡ヴァニティケース≡
「有り難うございます。これからは慎重に、かつ確実にことを運びますので」
頭を下げた作業服の男を見る目は、明らかに彼が下の者だという嘲笑めいたものだった。
「是非そう願いたいものですね」
そう言い終わるや否やスーツの男は席を立ち、そそくさと店を出て行った。
「……畜生! これじゃ取引先からいたぶられる、弱小下請けみたいじゃねえか! しかし金の力には逆らえねえ。こうなりゃ成功報酬をたんまり頂いてやるまでよ」
立場の強弱は世の常だ。力の有るところに金が集まり、また金の有るところに力は集まる。そこに登る事が叶わない者は、謙るか反発して弾かれるか、あるいは悩んだ挙句に教会のドアを潜るしかない。
「あの野郎、伝票まで置いて行きやがって……」
スーツの男は約束時間のかなり前から居座っていたのだろう。見れば伝票には、ピザにピラフにコーヒーにサラダ、そればかりかチョコレートパフェまで印字されている。こんな些細な搾取が世界全体の縮図にさえ思えて男は苛立った。弱者が穏やかに生きるのは難しい世の中だ。
「畜生、やっぱりあいつ許せねえ!」