≡ヴァニティケース≡

「事件が解決したら、またゆっくり食事がしたいわね」


 美鈴は弁当箱を包むと、それを傾かないようにそっと鞄へしまった。靴を履き、ドアを開けて二階の階段から見渡せる範囲を注意深く観察する。


 アパートの前の路上には、自転車に跨がって走り出す男子高校生や鞄を振り回すようにして走る若いビジネスマンが目に写った。皆、それぞれの人生を小脇に抱えているのだろう。だがそんな斟酌シンシャクはともかく、そこには慌ただしい朝の風景が広がっていただけだった。


「怪しい気配なし」


 錆び掛けた鉄製の階段を早足に降りる。踊り場を旋回する。階段からコンクリートの路面に着地する。放り投げるように不燃ごみを集積所に置く。そして美鈴は、人通りが多い大通りまで一気に駆け抜けた。



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