≡ヴァニティケース≡

「ハァッ、ハァッ……」


 そこまで来て、息を整えるために立ち止まった。行き交う人の波が美鈴の緊張を幾分和らげてくれるが、しかしバイクの件も有る。全方向への注意を怠らないよう心掛けなければならない。


「さぁ行こう」


 美鈴はぎこちなく歩き出した。周囲から見れば出来損ないのロボットか、はたまた糸の切れかかった傀儡クグツか、およそ人間らしくない足取りに写っていたことだろう。駅へと向かう道が普段の何倍にも感じられた。


 少しの間電車に乗り、駅の改札を出て、また歩く。漸く病院が近付いてきた。あのスーパーを右に曲がればもうすぐだ。ここまでくれば安心と、そう美鈴が胸を撫で下ろした時、バタバタと喧しく迫ってくる足音が背後からして、いきなり強く肩を掴まれた。



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