≡ヴァニティケース≡
「きゃっ!」
あれだけ注意を払っていたのにも関わらず、結局そんな小さな叫び声しか上げられなかったのが情けなかった。美鈴は後ろからの急襲に、結果なんの対処も出来なかったのだ。
「ハァッ、ハァッ。美鈴……くん」
だが、彼女の肩を掴んだのは石田だった。約束通りに家まで迎えに行ったにも関わらず、不在だったため後を追ってきたのだろう。息も相当に上がっている。
「ああっ、石田先生……ごめんなさい、私……」
「私ももう若くないんだ。ハァッ、ハァッ、これにはちょっと堪えたな……」
美鈴は平謝りに謝って、事情を説明した。
「……そうだったのか。でも美鈴くん。鈴奈さんに会って、一体どうするつもりなんだい?」
「それは私にも解らないんですが、でも、どうしても会っておかなければいけない気がするんです」