≡ヴァニティケース≡
「まさか、それはまた女の勘……ってヤツかい?」
石田は肩を竦め、頬に明らかな苦笑を浮かべている。美鈴は答えに困って、ただ頷いた。
「ならば何も言わないが……おっと、もうこんな時間だ。急がないと、ホラ」
「ああっ、ホントだっ」
事情を説明するのに思いの外時間が掛かった。長い間立ち話をしてしまったらしい。二人は取るものも取り敢えず走り出した。
─────先生、困った顔をなさってたなぁ。考えてみれば、私も甘え過ぎなのよね─────
勤務時間に入ってからも、美鈴はパソコンのディスプレイに流れる文字を眺めながら、朝に見た石田の複雑な表情を思い浮かべていた。
─────やっぱり、何の関係も無い鈴奈さんと会おうなんて、荒唐無稽なのかな─────
つい、また思い直しそうになる。だが、これまでだって何度も否定して、しかし他に糸口が掴めずにいたではないか。結局そこに活路を求めるしかなかったではないか。これを避けて通っては、幾度となく繰り返してきた堂々巡りに、またまんまと戻ってしまう。