≡ヴァニティケース≡

─────鈴奈さんについては、先生にお知らせしないで調べよう。そもそも事実関係に目処も付かない内から先生に頼り過ぎてたのよ─────


「うん、そうしよう」


 また独り言が口を突いて出てしまった美鈴は、慌てて手で押さえた。幸い蒔田は何かの用事で席を外しているようだったし、パートの事務員達も何事も無かったように忙しく立ち働いている。


─────危ない危ない。悪い癖だわ。それとそう、あのことだって調べないといけない─────


 今度は口に出さずにいられた美鈴は、気を取り直して山となった保険点数の入力を始めた。やらなければならない事は沢山有る。仕事も、仕事以外の事もだ。


 だが、作業に集中している筈が、油断した隙にモヤモヤとAB型の血が騒ぐ。


「生活の事も考えず、男なんかに溺れたからよ」背中のあたりでA型の血液が言った。「いま大変なのは、快楽にだらしなかったあの頃の報いなのよ」と。



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