≡ヴァニティケース≡

「今がどん底なら、ここから先は登るしかないじゃない」B型の血液が耳元で反論している。「どん底より下の底なんて無いわ」と。


 そう、どうにもならなくなったら祇園でも先斗町でも、どこかで水商売の接客をすればいい。シートの破れたスクーターに乗って、しのつく雨を我慢しながらその日暮らしをすればいい。それが自分のリアジェット(ビジネスジェット機の代名詞)だと思いさえすればいいのだ。


 やがて耳元の声が大きく響くようになる。「なんでも自分の都合のいいように解釈しなさい」美鈴の血はB型の方が濃いのかも知れない。「人は誰だって自分の見たいものしか見ないんだから」


─────そうよね……。ほんとに、そう……─────



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