≡ヴァニティケース≡
美鈴は昼休みが近くなってくるにつれ、頻りに時計に目を遣ってはその進みの遅さにイライラと焦燥を募らせていた。椅子に座る姿勢を何度も変えながら、身体を逆流して止まない血液をどうにか抑えている状態だ。
─────あと30分もあるの? 居ても立ってもいられないって、このことね─────
そんな彼女を見透かすように、眼鏡の奥から蒔田がこちらを見ている。
─────うわっ! 見られてた。鞄を漁ったことに感付いたのかしら……─────
「まさかね」
「なんや? 何がまさかやねん、新人!」
「ああっ、あの。あさはね……浅羽製薬です。会社名を度忘れしてしまって……」
思ったことが口に出る癖ほど厄介なものはない。何とかこの癖を治せないものか。毎度毎度、誤魔化すのにも疲れてしまう。だいいち蒔田の膨らんだ腹を、好奇心で更にはちきれさせるのは如何にも面白くない。