≡ヴァニティケース≡
─────いけないいけない。独りで考え事ばかりしていたからだわ。もっと慎重に振る舞わないと─────
午前中いっぱいに渡って続いた「勤務時間は一秒たりとも無駄にするんじゃない」との蒔田の小言も、美鈴にとってはただの雑音でしかなかった。
「すいません。お昼行ってきます」
やがて昼休みとなり、美鈴は小言が終わるか終わらないかの内に席を立った。背中に刺さる、詰るような、そして蔑むような視線も気にしてはいられない。急ぎ、彼女は図書館へと走った。
「構っちゃいられないもの。ああ、昼だからといって油断は禁物ね」
改めて周囲を見回して怪しい人物に注意するが、そこにはランチに向かうOLやサラリーマン、そして学生達のグループばかりだった。どうやら疑わしい者は見当たらない。