≡ヴァニティケース≡
「検索時間は40分しかない。急がなきゃ」
しかし、何という間の悪さだろう。図書館に着くと、端末が全て使用中になっている。美鈴はウェイティングリストに名前を記入して、休憩コーナーで持ってきた昼食の包みを開いた。
「もうっ! お昼休みをずらすんだった……」
それが身勝手な考えであることは承知していたが、だからと言って「しょうがない」で済まされない時が人間にはある。なにも高校入試の日に風邪をひかなくたって。なにも二回目のデートの日に生理にならなくたって。細かい話をすればする程、人の運命は些細な誤差によって狂っていく気がしてならない。その小さな歪みがもたらした大きな不幸が元で命を落とした者に、当然次の機会は訪れない。
たかが端末が埋まっていただけでも、生き死にに関わるかも知れない美鈴には「しょうがない」とは言えない事情が有ったのだ。
しかし、結局その日。時間内に順番が巡ってくることはなかった。