≡ヴァニティケース≡

 美鈴は宇佐美には悪いと思いながらも、セールストークのテクニックで話を進めていった。普通の主婦が縁遠い、かつ興味の有る話題を撒き餌として散らし、言葉尻を濁すことにより、餌に喰い付かせたかったからだ。


「襲われたてそんな。ま、蒔田はんが襲って来なはったんどすか?」


 思惑通り宇佐美は食い付いてきた。そして彼女の中では、既に蒔田を悪者として位置付けているのだろう。微妙ではあるが、表情にそれが出ている。


「まさかぁ。そうならもう警察に届けてますよ」


 一旦話題に惹き付けて、当然の結果で突き放す。こうして精神的な揺さぶりを掛ければ、より深く迄探りを入れることも容易になるのだ。


「それはそうやわ。でも大城はんが美しいから違いますの、夜道の独り歩きは気い付けんと」


 宇佐美は見るからに期待外れだったという素振りで、お仕着せの忠告をした。一瞬、口が軽い主婦に蒔田の話をしたのは誤算かとも思ったが、ここは話を続けよう。他の方法が捗っていないなら、伏線は多いほうがいい。



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