≡ヴァニティケース≡
「ほな、また明日。今度折り合い付いたらまたお茶しまひょ」
「私も楽しかったです。機会が有ったら是非また」
そして暫く談笑していたふたりだったが、会話が途切れたのを切っ掛けにしてどちらともなく席を立った。美鈴はにこやかに腰を折り、レシートを手に取る。少しでも蒔田の情報が聞けたのは幸いだった。宇佐美も聞きたいこと、喋りたいことを存分に果たせたのだろう。にこやかに笑って家路へと向かった。
「どうしよう。すっかり暗くなっちゃった……」
心細くなった彼女の脳裏に、ふと石田の顔がよぎった。彼はまだ病院に居るだろうか。しかし、思えば美鈴は石田の携帯アドレスさえ知らない。職場で毎日のように会っていて、なのにアドレスを尋ねていなかったのが悔やまれる。とは言え、もしまだ帰っていなかったとして、病院に電話を掛けても彼が受話器をとる可能性は低い。当直の医師発信で病院内に有らぬ噂を立てられては石田も迷惑だろう。何より、彼に知らせずにおこうと思ったのは、つい数時間前のことではなかったか。