≡ヴァニティケース≡
焦りでうまく巡らない頭ではあったが、美鈴は考えた。
仮に殺すのが奴らの目的であったなら、もうとっくに殺されていてもおかしくはない。わざわざ車で拐ってきて、どこで買えるのかさえ解らない拘束衣を着せる必要も無い。拉致したあの場所で殺して、死体を放置してきた方が利口だ。
なのに美鈴がまだ生きているということは、すなわち奴らの目的は他に有る。だとすると、目的を果たしてから殺すつもりなのか。しかしそれが一番困る。
殺されてからバラバラになるのと、バラバラにされたから結果死ぬのとでは前者を全力で支持する。目的の内容によっては即死を希望したくもなる。最悪の中の最良の選択だ。
纏まらない思考、理解出来ない現実。人は最悪の瞬間までそれを最悪と認識しないのだ。この時になってもまだ、美鈴は自らの状況を正確には理解出来ていなかった。