≡ヴァニティケース≡
声は真上から聞こえている。美鈴を見下ろしながら発せられているようだ。彼女はその大袈裟な口調に感情を逆撫でされた。今後の展開に大幅な変更はないと、暗にそう言っているのが手に取るように解ったからだ。
微かな希望さえも許されない、屠殺場に連れて来られた家畜の気分。しかしはっきりと言えることは、希望も絶望も決して美鈴の助けにはならないことだ。希望を持っていても死ぬときは死ぬ。絶望に支配されていても存ナガラえるときは存える。美鈴はもし生きてここを出られたら、いつかそれを論文に書いてやりたいとさえ思っていた。
すると、女の細い指が美鈴の髪を梳き始めた。まるで我が子の頭を撫でるように優しく、長く一緒に暮らしたペットの死を悼むように悲しく。
「うちらは、世にも哀れなホムンクルス。永遠に本物にはなり得ないまがい物。せやけど……」
声は次第にトーンを落とし、禍々しい響きを持って美鈴の蝸牛管から脳へと登り、そこから奥歯まで下った。ガタガタと鳴る歯が止まらない。