≡ヴァニティケース≡
『誰か助けて……私は、ここよ!』
美鈴はそう叫んだが、叫んだ筈のその声は、見えない壁に隔てられた場所へと消える。
死を目前とした、とりわけ理性ではまったく判断できない場面に遭遇した女が出せた声は、虫の羽音よりも小さく、朝露よりも儚い。
今となってはもう、ここに来たのが誰であろうと構わなかった。助かるも助からないも、既に思案の外だった。美鈴に取っては、それが目の前に居るこの男でさえなければ誰でも良かった。
「ここには居ません」「そんな筈はない、探せっ」「ここに階段が有ります。こっちですこっち!」
だが、男たちの怒声は次第に大きくなって聞こえてくる。近付いている。いや、もう、すぐそこまで来ている。