≡ヴァニティケース≡

 その渦中に居た美鈴は、彼女の願ってやまなかった救世主の登場に気付けないでいた。生への執着と死への諦めが融和し、意識が正常な判断とはもっとも遠い場所にまで連れ去られていたからだ。


「くぉのエロおやじが! おっ立てたまんまでイキがってんじゃねぇぞ!」


「なっ!」


 七三の男はズボンを膝まで降ろしていて、酷くくたびれたブリーフが薄明かりの下で露わになっている。雄々しく隆起したその部分も、今に限っては滑稽にしか写らない。


「さあ、オッサン。お楽しみはそこまでだ、残念だったな」


 そう言って不敵に笑ったのはあのパーカー男、塚田だった。彼はあたりをぎょろぎょろと見回して美鈴に語り掛ける。


「遅くなっちまったな。おっと、こりゃ目の毒だ。……おい誰か! 何か掛ける物を持ってきてやれ!」


 そう指示を飛ばすと、もうひとりの部下に目配せした。



< 240 / 335 >

この作品をシェア

pagetop