≡ヴァニティケース≡

「じゃ、お送りしますか。もう一人のお嬢様」


 後部座席に美鈴を押し込むと、やっと男が口を開いた。どうやら塚田達は違う車に乗ったようである。


「ほんとうに、有り難うございました」


 美鈴は改めて男に礼を述べた。


「気にするな。金の為だ」


 一仕事終えた解放感からか、男は美鈴とのコミュニケーションを拒絶しない。むしろ容易く質問の答えを返してくる。


 するとそこで美鈴は、また初めての男を思い出した。彼も息が整ってからはやたらと饒舌だった記憶が有る。



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