≡ヴァニティケース≡
「依頼人の名前を言う奴はいねえよ。そいつは表の稼業でも同じじゃねえのか?」
吐き捨てるように答えた男の表情が、そんなことは当然だろうと言っている。守秘義務ってものがあるだろうと。
「だったら私を誘拐した人が誰かを教えてください。それなら貴方の雇い主に迷惑は掛からないでしょう?」
美鈴は食い下がった。常識的に考えられる全ての原因を探っても、自分には危害を加えられる謂われなどない。落ち度だって有る筈もない。
「あのな、お嬢さん。俺たちみたいな末端の人間は、ただお嬢さんを敵から守れとしか言われてねぇんだ。無論、情報も有ることは有るが、それをあんたに話すメリットは無い」
「どうして私に話しちゃいけないの? 私が詳しく知っていれば、貴方達ももっと守り易くなるじゃない」