≡ヴァニティケース≡
「解らないのか?」
酷く突き放した語調だった。彼は美鈴に恨みでもあるのか、あるいは仕事になんの感情も介入させないタイプなのか。その頬にも瞳にも、凍りついた礼儀以外は何も見当たらなかった。
「ちっとも解らないわ」
負けずに強く言うと、途端、男の眉間に皺が寄った。目と目の間に、いい加減にしろと書いてある。
「お嬢さん。依頼人との契約ってのは、あくまでひと仕事が終わるまでの契約だ。それが終わったら俺達はフリーなんだぜ」
「フリー?」
「そうだ。つまり今日の敵が、明日は味方になるかもしれないって事だ。永久に雇ってくれる依頼人でも見付からない限り、この世で俺達が信じられるのは仲間とカネだけってことさ。これ以上は説明しなくても解るだろう?」
そう言われて、美鈴は黙るしかなかった。次の言葉を拾えない悔しさから、ギュッと唇を噛む。