≡ヴァニティケース≡
「それと、これ」
「はい?」
車を降りようとした美鈴の膝に、男がポンとバッグを投げて寄越した。それは美鈴自身のバッグだった。
「こいつがないと家に入れないだろ? ちゃんと拾ってきてやったぜ」
「あ、これ、私の……。有難うございます」
「礼は要らない。仕事だからな」
とことん完璧なのが逆に忌々しかった。無駄なのは解っていたが、美鈴は縋るような目で尋ねてみた。
「ねえ、どうしても敵が誰なのか教えて貰えないんですか?」
「そいつは無理な注文だ」
男はやはり、そう冷たく断言した。この対応を見る限り、塚田の教育が行き届いているのは良く解る。裏の世界に生きている男が、泣き落としや色仕掛けで簡単に情報を教えてくれるとは考えにくい。