≡ヴァニティケース≡
それにしても京都とは、我ながら文化的に正反対の地域へと来たものだ、と美鈴は自嘲する。
『……ねえ、ミスズ。さっき見た女に見覚えはなかった?……』
どこからか聞こえてきたのは母の声。
……いや、違う。似ているが母の声ではない。では誰の声? ありふれた幻聴? それともあり得ない幽霊?
『……確かに見えた筈よ。思い出して、ミスズ……』
─────なんなの? はっきりとは見てないわ! それに何故今なの?─────
先刻、混乱と安堵の中で、美鈴は女の顔を見ていた。ジャック・ハミルトンよりもほんの少しだけ運が良かったらしく、跳弾も避けて通ってくれた。
拘束衣をほどかれ、誰かにシーツを着せられて立ち上がったその刹那、ほんの一瞬だが、倒れている女の顔が垣間見えたのだ。しかしその時の映像は、めくるめく記憶のフラッシュバックに邪魔されて、なかなか明瞭な像を結ばない。