ジェフティ 約束
 シェシルは力なく首を横に振ると、苦笑しながら言った。「それは買いかぶりすぎだ」と。
「……そんなこと…」
 ラルフは言葉を失う。

 ラルフは沈黙が一瞬流れた後、気を取り直して聞いてみる。
「その、介抱してもらった村の思い出は、いい思い出?」
 その言葉を聞いたシェシルは、ふとラルフと視線を合わせる。その目には、なんともいえない穏やかな優しい光がゆらゆらと漂っていた。
「正直言うとね、私はその村から出て行きたくはなかったんだ。それでも、自分の唯一の支えを失っても、憎しみは消えることはないと知っていたから。
 私とその村との接点は、その剣一本。私は父の残した形見の剣の片割れを、村に残して出ていったんだ。そは、私を助けてくれた男に使ってくれと村人に託してね」
 風呂場の壁際に、脱ぎ散らかした服が丸まっている傍らに、その見事な装飾を施したシェシルの長剣は凛とした輝きを放って立てかけられていた。ラルフはシェシルから離れてその長剣の前に立つ。見れば見るほど美しい形をしている剣だ。
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